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あとがき

  本書『福音の史的展開』は、五十有余年にわたる著者の実際の福音活動と新約聖書の研究を通じて探求してきた「福音とは何か」という課題への応答としてまとめたものです。一昨年(二〇一〇年)に刊行した『福音の史的展開T』で最初期前期を扱いましたが、ここに最初期後期を扱う『福音の史的展開U』を刊行して、全体を完結することになりました。著者にとって、上下二巻からなる本書の完結は、生涯の課題を果たした思いで、感慨深いものがあります。

 本論の各章(第五章から第八章)と終章は、著者の個人福音誌『天旅』の二〇一〇年2号から6号、二〇一一年1号から4号、および二〇一二年1号から3号までの計十二号にわたって連載したものです。

 本書は、福音の歴史的展開を追究して福音の本質に迫ろうとする著作『福音の史的展開』の後編をなし、復活されたイエスの顕現からパウロの福音活動に到るまでの時期、使徒たちが活動した使徒時代を扱った前編(上巻)に続いて、前期と後期を分けるユダヤ戦争前後の激動の時代から始まり、使徒たちの後継者による福音活動と、後継者によって使徒の名で書かれた書簡と、その時期に成立した四福音書を扱っています。
 
 本書は、京都聖書学研究所における「新約原典研究会」での議論に、直接または間接に多くを負っています。この研究会は現在、久野晉良氏(大阪経済大学名誉教授、ギリシア哲学専攻)、私市元宏氏(甲南女子大学名誉教授、英文学・英米宗教史専攻)、水垣渉氏(京都大学名誉教授、基督教学担当)、田辺明子氏(プール学院大学名誉教授、キリスト教学専攻)および著者の五名(すべて日本基督教学会会員)で進められています。この研究会は一九七七年から始まり、創和会館を会場として月一回のペースで現在に至っています。研究会では、まずピリピ書、マルコ福音書を学び、その後二二年に及ぶローマ書研究を成し遂げ、エフェソ書を経て、現在はヨハネ福音書の研究に入っています。この研究会は、その時の研究主題だけでなく、新約聖書全般にわたって、また最近の神学的動向について活発な議論を展開し、著者の新約聖書研究に貴重な刺激と教示を与えてくださっており、著者の著作活動の原動力になっています。本書は、基本的には著者の信仰告白的な作品ですから、その内容については著者一人の責任ですが、研究会諸氏の励ましとご教示に大いに助けられています。本書の出版にあたって改めて研究会の諸氏に深甚の謝意を表します。
 
 また、この著作集の刊行は、著者の個人福音誌『天旅』の読者である誌友諸氏の祈りと献金に支えられ、また校正などの縁の下の労苦を注いでくださっている誌友の方々の奉仕によって行われています。著者にとって生涯のまとめとなるこの著作の刊行にあたって、改めてこれらの誌友諸氏に心からの感謝の意を表します。

 わたしは今年十一月の誕生日で八二歳になります。いつこの世から召されて書けなくなる締め切り日が来るかわからない年代ですが、締め切り日までに本書を刊行できる運びになったことを、主の憐れみとして心から感謝しています。

二〇一二年 八月
                    市 川 喜 一



著者略歴  市 川 喜 一 (いちかわ きいち)

1930年 京都市に生まれる
1951年 京都工業専門学校機械科(旧制)卒業
1955年 京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科入学
     在学中、フィンランド宣教師の集会で入信、受洗
     以後、文学部哲学科基督学科の聴講生
1956年 大学院中退、独立伝道開始
     59〜69年、小池辰雄氏の「キリスト召団」の運動に参加
     京都・大阪など関西各地、小諸などで聖書講義の活動
1986年 個人福音誌「天旅」を発刊
2000年 開設したホームページに「市川喜一著作集」を順次上梓
2002年 「市川喜一著作集」の刊行を開始
2006年 著作集第1期完了、独立伝道50周年記念会
2012年 個人福音誌「天旅」終刊
2014年 著作集第2期を完了