新約聖書は、四つの福音書と使徒言行録という一群と、使徒書簡というもう一つの群との二つの文書群を柱として成り立っています。そして、使徒書簡の中ではパウロ書簡が質量ともに圧倒的な位置を占めています。ということは、パウロが宣べ伝えたキリストの福音が、福音書という形式の福音告知と並んで、新約聖書の福音の基本をなしているということです。それで本シリーズ(「パウロによるキリストの福音」および「パウロによる福音書」合わせて五巻になる予定)で、パウロ書簡の探求を通して、使徒パウロがわれわれに告げ知らせている「キリストの福音」とはどのような内容のものであるのかを追求していこうと願っています。その際、現在研究者の間で問題なく真正のパウロ書簡とされているローマ書までの七書簡を用います。ローマ書以後の、いわゆる「パウロの名による書簡」については、別の機会に扱います。
はじめに本シリーズ五巻の構成とその内容の概略を掲げておきます。
1 「パウロによるキリストの福音 T」
ガラテヤ書とテサロニケ書Tを資料として、パウロが宣べ伝えたキリストの福音が、福音の母胎であるユダヤ教を克服すると同時に、ユダヤ教を継承しているという面を見ます。
2 「パウロによるキリストの福音 U」
コリント書Tによって、福音が異邦人の間に受け入れられるときに生じる諸問題に対してパウロがどのように対処したかを見て、そのことを通してパウロによるキリストの福音の内容を探求します。
3 「パウロによるキリストの福音 V」
コリント書Uとフィリピ書およびフィレモン書によって、パウロ最晩年の活動の実際を探り、その時期のパウロの福音宣教の内容を理解することを試みます。
4 「パウロによる福音書―ローマ書講解 T」
5 「パウロによる福音書―ローマ書講解 U」
パウロ書簡の中で最後に書かれ、もっとも体系的にキリストの福音を提示しているローマ書は、「パウロによる福音書」と言えます。このローマ書を講解することによって、「パウロによるキリストの福音」を提示します。Tはローマ書の前半(一〜八章)、Uは後半(九〜一六章)を扱います。
本シリーズは、パウロ書簡を講解しようとするものではなく、あくまでパウロ書簡を通して、パウロが世界に告知したキリストの福音とは何かを探求しようとするものです。そして、最後にローマ書を講解することで、「パウロによるキリストの福音」をパウロ自身が提示した形で理解することを試みます。
本書はこの「パウロによるキリストの福音」シリーズの第1巻になります。 (本書「まえがき」より)
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